現役ペットショップ店長、のあちです。
今回は今まで敢えて触れてこなかった、ペットショップの生体販売の今後について、少し踏み込んだ話をしようと思います。本題に入る前にまず、私の立ち位置をはっきりさせておきたいと思います。
私は、現役のペットショップ店長として働いていますが、ペットショップの生体販売については懐疑的な気持ちでいっぱいです。「今のままではいけない」と思うものの、「何も変わらないんだろうな」というのが心情です。なぜ、そう思うのか、実際のところこれからペットショップはどうなっていくのか、をこれから書き連ねていこうと思います。
ペットショップの誕生と歴史
ペットショップの今後や世界の生体販売について、書き連ねていく前にペットショップの誕生とペットとの暮らしの歴史を調べてみました。
ペットショップの誕生
日本におけるペットショップの原点は江戸時代にはじまったと言われています。虫や鳥、魚などを販売して、「鳥獣店」と呼ばれていました。
一方、世界に目を向けると、中世ヨーロッパ頃に商人がペットを販売していたようですが、ペットショップという概念ではなかったようです。
ペットショップの歴史
- 古代文明:古代エジプト、ギリシャ、ローマなどの文明では、犬や猫、鳥などの動物がペットとして飼われていました。これらの動物は、主に富裕層や貴族に飼われていました。
- 中世ヨーロッパ:中世のヨーロッパでは、ペットとしての動物の飼育が続きましたが、ペットショップという概念はまだ存在していません。
- 産業革命以降:人々の生活水準が向上し、都市化が進むにつれて、ペットを飼うことが一般的になりました。この時期には、ペットの需要が増加し、ペット専門の店舗が出現し始めました。
- 20世紀初頭:ペットショップが都市部を中心に広がり始め、犬、猫、鳥、魚などの動物が販売されるようになりました。また、ペットフードやおもちゃなどの関連商品も取り扱うようになりました。
- 戦後:第二次世界大戦後、経済成長とともにペット市場も拡大しました。特に1950年代から1960年代にかけて、ペット産業は大きく成長し、多くの専門的なペットショップチェーンが登場しました。
- 1970年代以降:ペットショップはさらに多様化し、エキゾチックアニマル(例えば爬虫類や小動物)の取り扱いも増えていきました。また、ペットの健康や福祉に関する商品やサービス(例えば、トリミングやペットクリニック)が充実していきました。
- 21世紀:インターネットの普及により、オンラインでペット関連商品の販売が一般化しました。これにより、消費者はより多様な選択肢を持つようになり、ペットショップの在り方も変わってきました。また、動物愛護の観点から、ペットショップにおける動物の飼育環境や販売方法についての規制が厳しくなってきています。多くの国で、ペットの福祉を重視した法律やガイドラインが制定されています。
「世界的な生体販売不可」は本当か?
世界では、一部の国や地域でペットショップにおける犬や猫の生体販売が禁止されているか、厳しく規制されています。これらの規制は、動物福祉を重視し、不適切な繁殖や過密飼育を防ぐために導入されています。
ペット後進国と言われている日本は、動物愛護の思想が強い「ドイツやフランスを倣うべきだ」という意見をよく耳にしますが、はたして本当にそうか?と個人的には思っています。
それでは、そろそろ本題に入りましょう。欧米諸国の生体販売についてまとめてみました。青いマーカーの箇所はとても大事です。
欧州
フランス
まず、フランスではペットショップでの犬や猫の販売は一部を除き禁止されています。一般の人がインターネットを通じて犬や猫を販売することや犬や猫のショーケースでの展示も禁止されています。
新たに犬や猫を飼いたい人は正規のブリーダーから購入するか、保護団体などから譲り受ける必要があります。
そもそもフランスは、「ヨーロッパで最もペットを捨てる国」と言われています。5月から8月のバカンス期間に「旅行先にペット連れていけないから」という理由だけで年間10万頭ものペットが遺棄されているのです。
ドイツ
ドイツでは1歳未満の犬は販売できません。また、生後8週間未満の子犬は母犬から離してはいけないという規制もあります(日本も同様の規制があります)。犬を飼っているだけで年に一度、飼っている頭数に応じて税金もかかります。
犬や猫を販売しているペットショップはほぼ存在しておらず、犬や猫を飼いたい場合は優良なブリーダーやティアハイム(動物保護施設)を介しているそうです。犬や猫の販売条件、飼育条件がとても厳しくペットショップとしての経営が困難なことも理由に挙げられます。
イタリア
日本のペットショップのようにショーケースに入れておくことは虐待にあたるため禁止されています。そのため、ペットショップでは犬猫の生体販売はしておらず、保護犬・保護猫の情報が掲示されています。
犬を飼う場合は正規のブリーダーを探すか、保護施設や掲示板・ネットの募集から探すことがメインになっているそうです。
また、一部の町では「犬を散歩に連れて行かなければ罰金」という条例があります。
イギリス
イギリスもドイツ同様にペットショップで犬や猫を販売することを禁止されています。また、子犬を売買する場合はブリーダーの元で母犬や生活環境を確認など様々な手続きのうえ、購入することができます。
ブリーダーとしての規制もとても厳しく、日本のように「誰でもなれる」わけではありません。
その他
ベルギーやオランダでも、ペットショップでの犬、猫の生体販売は厳しく規制されており、ブリーダーによる販売が主流となっています。
北米
アメリカ合衆国
アメリカでは州ごとで異なる規制があります。カリフォルニア州ではアニマルシェルターやレスキューセンターなど、動物保護施設から受け入れた犬や猫、ウサギ以外の生体販売は禁止されています。日本のように登録制度もあり、税金もかかります。
ニューヨーク、シカゴ、ボストンなど、複数の都市や州でも同様の規制が導入されており、今後さらに広がると推測されています。
カナダ
バンクーバーやトロントなどの大都市ではペットショップでの犬、猫の生体販売が禁止されています。トロントでは10年以上前からこの施策が行われています。
その他
ブラジル
ペットショップには子犬や子猫ではなく、保護犬が家族を待っています。また、飼いたい犬がいる場合はペットショップから紹介してもらうこともありますが、基本的にはブリーダーからの直接購入が主流となっています。
オーストラリア
一部の州でペットショップでの犬、猫の生体販売が禁止されています。ペットショップはシェルターやレスキューセンターなどの動物保護施設から受け入れた動物のみを取り扱うことが義務付けられています。
このように、現在では多くの国で「ペットショップでの生体販売」に規制があり、主に「ブリーダーから直接」犬や猫を購入している、ということになります。
日本ではよく「生体販売をしないとペットショップは経営が成り立たない」と耳にしますが、世界的に見ると、ペットショップで生体販売をしなくても経営はできていることになります。
そもそも、なぜペットショップが悪なのか
ペットショップに良くない印象を持つ人が多い理由はいくつかあると思います。しかし、そのなかには「実際はそんなことないけどね」ということもあります。これからペットショップが嫌われているとされる理由をいくつか挙げていきます。
犬猫のストレス
多くのペットショップでは犬や猫が狭いケージやショーケースに入れられています。常に狭いケージにいなければいけないストレスに加えて、いつもガラス越しに知らない人間(客)に見られていることもストレスに感じる犬や猫もいるはずです。
これは間違いないと思う。
でも今は法律で定期的に広いスペースで遊ばせなきゃいけないよ
体の小さな犬や猫の方が客のニーズがあり、値段も高いため不十分な食事量や水が与えられていないのではないか。つめきりやシャンプーなどのケアや体調不良時に必要な投薬をされていないのではないか。
これは間違い!
食べが悪い犬猫はいますが、
わざとごはんの量を減らすことはありません!
薬をあげないのもありえません!!
不透明な情報・繁殖
一部のペットショップは、大量繁殖を行うパピーミルから動物を仕入れています。これらの施設では、繁殖用の動物が劣悪な環境で飼育されていることが多いです。
ペットショップを運営する会社の規模が大きいほど
パピーミルから仕入れることはありません。
ペットショップで販売される動物の健康状態や繁殖背景が不透明なことが多く、購入後に病気が発覚したと聞いたことがある。
繁殖背景は不透明なことが多いです!
健康状態はスタッフが把握しているよ!
購入後の病気発覚は別の理由かと!
ペットショップのスタッフが十分な知識を持たず、誤った情報を教えられることがある!
これはありますね・・・。
衝動買いの助長
店頭で可愛い動物を見て衝動的に購入する人が多く、飼育に対する準備や責任感が欠如している場合があります。これが結果的に動物の捨てられる原因となるのでは?
全面的に同意です。
しかもペットショップは「今日連れて帰れる」と誘い文句を言います。
衝動買いの助長と言われることに否定はできません!
動物を商品にしている
動物の権利を重視する動きが強まり、ペットショップでの生体販売に対する批判が高まっています。多くの人々が動物を商品として扱うことに対して倫理的な問題を感じています。
これも同意します。
いわゆる「人身売買」ですからね。
生体販売ができないペットショップの未来
動物愛護団体や社会の風潮から、動物愛護法がさらに改正されペットショップやブリーダーにとってより厳しいものになることが想定されています。
2022年の動物愛護法改正では、犬や猫のサイズ・大きさによって飼養できるケージやサークルの大きさが決められ、ペットショップやブリーダー施設の人員数の応じて管理できる頭数に上限ができるなどの改正がありました。
2022年の法改正についてはこちらの記事をご覧ください。
ここでは、これから先のペットショップについて、前述した海外の例をいくつか並べ、愛護団体が良しとするフランスやドイツなどの海外に倣った場合どうなるのか、想像できる未来をいくつか挙げてみようと思います。すべて私個人の想像であり、根拠があるわけではありません。
一部を除き生体販売不可
これまでのような生後間もない子犬や子猫の生体販売はできません。1歳以下の子犬や子猫の生体販売は不可で、動物保護施設から受け入れた保護犬を販売したり、保護犬情報の掲示をするだけになるかもしれません。
ブリーダーから直接購入
子犬や子猫を購入したい場合は、ブリーダーから直接購入することになります。この場合でも生後2ヶ月程度は販売できず、親元で一緒に暮らさなければいけません。
海外の一部ではインターネットでも販売しています。しかし、ebay(日本でいう楽天市場のようなもの)で生体が販売されており、スマホでワンクリックで生体が購入できてしまっている現状のような状態にはならないと思います。
保護動物の譲渡促進
ペットショップが譲渡会やしつけ教室のようなイベントを定期的に開催し、地域コミュニティと連携して保護動物の認知度を高め、新しい飼い主を見つける活動が増えるでしょう。
また、ペットショップによっては保護団体と提携し、保護動物の譲渡を積極的に行うようになる可能性があります。これにより、生体販売から保護動物の新しい飼い主への橋渡し役にシフトする店舗が増えるかもしれません。
実際はこのような未来が待っている
ここからは、考えられるペットショップの未来と、実際に現場で働く私が体感として感じること、また「こうなりそうだな」と思っていることをまとめてみます。
何も変わらない
何も変わらないんかい!というツッコミが聞こえてきそうですが、私はあまり現状と変わらないと思います。
欧米諸国では現状、子犬を購入する場合はペットショップではなく、「正規のブリーダーから直接購入する」が一般的となっています。日本でも同様に「正規のブリーダーから直接」購入する未来が訪れたとしても、いま全国各地で展開されている大手ペットショップを運営する会社は大半で「自社ブリーディング」を行っています。つまり、大手ペットショップは今と変わらず、自社ブリーディングで産ませた子犬を店頭に並べて販売することが可能なのです。
自社でブリーディングを行っていないペットショップは海外のように「生体販売をしないペットショップ」にするなどの対応を余儀なくされるでしょう。
何かしらの対策は必須
とは言え、私は現状のままで良いとはまったく思っていません。狭いショーケースに入れられ、並べられている子犬や子猫はとてもストレスに感じているでしょう。子どもがショーケースのガラスをガンガン叩いている様子も毎日のように見ています。これも子犬や子猫にとってみれば大変なストレスであり、恐怖であると思います。
子犬や子猫の購入を検討している人は事前に予約しておき、入店を予約制にしている国もあると聞きます。普段からショーケースに並べておくのではなく、必要な場合のみバックヤードから連れてくるような仕組みがいいのではないかと思っています。
まとめ
ペットショップで生体販売することの是非についていろいろ考えてみました。
法律や制度が厳しく「動物愛護」を謳っている海外諸国でも、日本のはるか数十倍もの動物遺棄があり、スマホアプリでワンクリックで生体を購入できてしまっている現状において、それでも【ペットショップが悪だ】という思想に私自身はなりません。しかし、入場の予約制や常時展示はしないなど何かしらの対策は必要であると私は考えています。