現役ペットショップ店長、のあちです。
2022年6月、改正動物愛護法の施行に伴い、犬猫のマイクロチップ装着・登録が販売業者に義務化されました。この制度は、迷子や災害時の迅速な身元確認はもちろん、無責任な遺棄を抑止するための社会的かつ倫理的な仕組みとして運用されています。
施行から約3年半が経過した現在、この制度は現場でどのように浸透し、実際にどのような効果を上げているのでしょうか?
ペットショップ店長として、運用を最前線で見てきた専門的な視点から、「制度の現状と実績」「飼い主が遵守すべき法的責務」、そして導入から時間が経っても議論が残る「健康面・倫理面での懸念点」について、詳しく解説します。
マイクロチップ装着義務化の背景と現状
2022年6月、改正動物愛護法の施行に伴い、ペットショップやブリーダーなどの特定業者に対して、販売する犬猫へのマイクロチップ装着と、環境省データベースへの情報登録が義務化されました。
この義務化の核心は、「動物の個体識別を確実に行う」ことで、無責任な遺棄や虐待の抑止力とすること、そして災害時における迅速な飼い主返還を実現することにあります。
特定業者と一般飼い主の「責務」
法律でマイクロチップの装着・登録が義務付けられているのは、あくまで犬猫を販売・譲渡する事業者です。しかし、一般の飼い主にも以下の「責務」が発生します。
・特定業者から迎えた場合
マイクロチップが装着された犬猫を新たに迎え入れた飼い主は、30日以内に環境省の指定登録機関に対し、「所有者情報の変更登録」を行うことが法律上の義務となります。これは、マイクロチップに登録されている「事業者名」を「飼い主の氏名・住所」に書き換える作業です。
・2022年6月より前から飼っている犬猫の場合
2022年6月以前から飼育している犬猫への装着は「努力義務」に留まりますが、万が一の際の安全性を考慮すると、専門家として装着を強く推奨します。
現場の課題は「登録情報の不備・未変更」
義務化から3年半が経過した現在、現場で最も課題となっているのが、飼い主による「所有者情報変更」の未実施です。
環境省のデータ更新がなければ、迷子や遺棄された際にチップを読み取っても、情報が古い販売事業者にしか連絡がいきません。この手続きを「飼い主の最後の責務」として、確実に実行することが、制度の効果を最大化するために不可欠です。
⚠️ 現場からの警鐘:災害時に顕著となる情報の重要性
過去には、地震や大規模な浸水といった災害が発生し、ペットを連れての緊急避難が必要になった際、この情報未更新が原因で飼い主への連絡が大幅に遅れた事例が報告されています。被災状況下では、ペットショップやブリーダーなどの特定事業者は、正常な営業活動ができず、迅速な情報照会や対応が困難になります。
一方で、マイクロチップの情報が正しく更新されていたケースでは、動物保護センターや保健所などから速やかに本来の家族へ連絡がつき、再会できた事例も多く発生しています。
マイクロチップの装着は「万が一の命綱」であり、所有者情報の変更手続きは、その命綱を確実に機能させるための飼い主の重要な役割であることを理解しておく必要があります。
マイクロチップの基本構造と仕組み
マイクロチップの特徴と機能
マイクロチップは、直径約2mm、長さ8~12mm程度の円筒形の電子標識器具です。内部には、世界で唯一の15桁の識別番号を記録したICチップが格納されており、外側は生体適合ガラスで覆われています。
・半永久的な使用
チップはリーダー(読み取り機)から発信される電波を利用してデータを受信するパッシブ型であるため、電池は不要です。
一度体内に埋め込めば、半永久的に使用でき、データが書き換えられることもありません。
・脱落、破損への耐性
通常の活動で体外に脱落したり、故障したりする事例は極めて稀であり、確実性の高い身元証明として機能します。
・GPS機能ではない
マイクロチップ自体にはGPS機能は搭載されていません。識別番号がデータベース上の情報と照合されることで、身元が判明する仕組みです。
装着方法と情報の登録・管理
マイクロチップの埋め込みは、通常の注射針よりもやや太い専用の器具を用いて行われます。
埋め込みは獣医療行為にあたるため、必ず獣医師が実施します。犬猫の場合は、首の後ろ(背側頚部皮下)に注入するのが一般的です。
登録されるのは、チップ番号と飼い主の氏名、住所、電話番号などの連絡先データです。結婚による改姓や引っ越しなどで情報が変わった際は、必ず指定登録機関に変更を届け出る必要があります。
マイクロチップ装着に伴う健康面・倫理的な懸念
マイクロチップ装着については、安全性や倫理面から一部で懸念が示されています。
痛みと身体への負担
装着時の痛みは、通常の予防接種と同程度とされており、一般的に鎮痛剤や麻酔薬は必要ありません。
チップはアレルギー反応や副作用のリスクを最小限に抑えるため、生体適合ガラスで覆われています。まれに皮下組織内でチップが移動する事例は報告されていますが、動物の健康に直接的な悪影響を与えたという報告はありません。
賛否両論の背景
マイクロチップの装着義務化には、「動物の福祉向上」という目的がある一方で、「体内に異物を埋め込むことへの抵抗感」という倫理的な議論も存在します。
飼い主情報が紐づけられることによる無責任な遺棄や飼育放棄への抑止効果は、動物愛護の観点から非常に大きな意義を持ちます。マイクロチップは、ペットを「単なるモノ」ではなく「責任を伴う命」として扱うための方法とも言えます。
まとめ
この記事では、ペットショップ店長という立場から、犬猫のマイクロチップ装着義務化の「今」について、詳しく解説しました。
✅ 制度の目的
マイクロチップは、迷子や災害時に大切な家族(ペット)と再会するための確実な身元証明であると同時に、無責任な飼い主による遺棄を防ぐという、社会的な役割も持っています。
✅ あなたの責務
飼い主さんが絶対に忘れてはいけないのが、環境省への「所有者情報変更の届出」です。これが未完了だと、災害時などにチップが読み取られても、古い情報(ペットショップなど)にしか連絡がいきません。
✅ 私からのメッセージ
装着は「痛そう」「可哀想」という不安もあるかもしれませんが、チップは安全な素材でできており、そのメリットは万が一の際の命の安全に直結します。
マイクロチップは、単なる「法律で決まったルール」ではなく、私たち人間が「一つの命の責任を最後まで果たす」ための、非常に大切なツールです。
この制度を正しく理解し、愛する家族を守るために、ぜひ「所有者情報の変更」を忘れないでくださいね。

